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二十歳の七月くらいの時の話なんだが…その頃、俺はとにかく金に困ってた。 白米とみそ汁以外のものを口にしてなくてさ… 数日前、ウェイターのバイト中に三回ぶっ倒れて、そろそろ栄養のあるものを食べないとまずいと思った。 金になるものといったら、家具、数十枚のCD、それに数百冊の蔵書の他には考えられなかったな。 ほとんど中古品で、たいした価値はないんだが、それでも一か月の食費くらいにはなるかと思って、できるだけ新品に近付けようと入念に掃除して、行きつけの古書店や楽器屋に売りに行ったわけだ。 古書店の爺さんは、俺が本を大量に売りにきたのを見て、「一体何があったんだ?」って心配してくれた。 普段はそっけない爺さんだったから、意外だったな。 「紙はおいしくありませんからね」って俺が遠回しに答えると、爺さんは心底同情したような目で俺を見つめた。 でも金はくれなかったな。向こうも貧乏だから仕方ないけど。 はした金を受け取って店を出ようとすると、爺さんは「なあ、ひとつ話がある」と俺を引きとめた。 金くれんのかなーと思って「はい?」と戻ると、言われたんだよ、「寿命、売る気ねえか?」って。 老いの恐怖でついにボケちまったかと思いつつ、俺は話半分に爺さんの説明を聞くことにした。 つまりは、こういうことらしい。 ここからそう離れていないとこにあるビルに、寿命の買い取りを行っている店が入ってるらしい。 そこでは時間や健康さえも売れるんだが、寿命は特に高値で取引されてるんだそうだ。 爺さんは震える手で地図と電話番号まで書いてくれたが、俺でなくたって、そんな話、爺さんの願望が作り上げた空想に過ぎないって思ってしまうだろう。 ちょっとかわいそうに思ったね。死ぬの怖えんだろうな、って。年取ると死ぬの怖くなくなるのかな