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□メッセージ
げっそりした気分でトイレから出ると、監視員がドアの正面に立っていた。 最前席で聞きたかったのかな、俺の吐く音。 うがいをして水をコップ三杯飲みほすと、俺は再びベッドに戻って横になった。 「昨日も説明しましたけど」と横でミヤギが言う… 「あなたの余命は一年を切りましたので、今日からは常時、監視がつくことになります」 「その話、後じゃ駄目か?」と俺はミヤギをにらんだ。 ミヤギは「わかりました。じゃあ、後で」と言うと、部屋のすみっこに行って、三角座りをした。 以後、ミヤギはそこから俺を定点観測し続けることになる。 似たような経験のある人には分かると思うが、これをやられると生活のペースはすっかり狂う。 ほら、人に見られてるとできないことって沢山あるだろ? 寿命が一年を切った客には監視員が付くってのは、確かにあらかじめ聞いていた話ではあったんだ。 ミヤギの説明によると、寿命が半年を切った客が、ヤケになって問題を起こすことがあまりに多いから、それを未然に防ぐために監視員が導入されたそうだ。 もし俺が他人に多大な迷惑をかけそうになったら、監視員が本部に連絡して、俺の寿命を尽きさせるらしい。 トラヴィス・ビックルにはなれないってこった。 ただ、最後の三日間だけは、監視員も外れて、純粋な自分の時間を満喫できるそうだ。 統計的に、そこまでくると人は悪さをしなくなるとか。 夕方には、吐き気も頭痛も消えていた。 俺はようやく物をまともに考えられるようになってきた。 昨日、衝動的に寿命の大半を売ったことについては、自分でも意外なほど後悔していなかったな。 むしろ、三か月も残さなきゃよかった、とさえ思った。 監視されっ放しの三か月なんてごめんだからな。