コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
で、家族の無償の愛とやらに包まれながら、余生を穏やかに過ごそうと思ってたんだよ。 だが、こっちが何か言う前に、お袋はべらべらと喋り出した。 それは俺の二つ下の、弟の話だった。 お袋はことあるごとにあいつの話をしたがるんだよ。というのも俺の弟、ちょっとした有名人なんだ。 野球をするために生まれてきたような男でさ、一年の時から甲子園で投げてるんだよ。 テレビにもしょっちゅう出てるんだ。 自慢の弟さ。 弟の相変わらずの大活躍については勿論のこと、お袋は、弟が連れてきた恋人の話までし始めた。 「とにかく美人なのよ」とお袋は二十回くらい言った。 「同じ人間とは思えないほど美人でね、その上性格も……」 まるでもう孫ができましたみたいな話ぶりでさ。 俺の話なんて全く聞こうとはしてねえんだよな。 実家に帰ろうという気持ちは、段々としぼんでいった。 最近では、その弟の素敵な恋人さんってのを、しょっちゅう家に招いて夕食を一緒にするらしい。 その場に俺が混ざるのを想像しただけで死にたくなったね。 俺は適当なところで電話を切った。実家に帰るのは、やめた。 今日は何をしても駄目な日なんだ、と俺は決めつけた。 好きなことでもして気分を紛らそうじゃないか。 それで明日になったら、また何をするか考えよう。 というわけで、欲望の赴くままに過ごそうと決めた俺だったが、その上で、どうしても邪魔になるやつが部屋のすみにいるんだよな。 「私のことはいないと思ってくださって結構ですよ」 俺の気持ちを察したのか、ミヤギはそう言う。 だが、本人がいくらそう言っても、気になるものは気になる。 自分で言うのもなんだが、俺はかなり神経質なんだ。