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□メッセージ
「それ、何書いてんだ?」と俺は聞いた。 「行動観察記録です。あなたの」 「そうか。いま俺は、酔っ払ってるよ」 「そうでしょうね。そう見えます」 ミヤギはめんどくさそうにうなずいた。 実際めんくせーんだろうな、俺。 完全に酔いが回った俺は、なんだか自分が悲劇の主人公になったような気がしてきた。 で、落胆の反動っていうか、双極性っていうかさ。 急にポジティブになったんだよ。 得体のしれない活力が溢れてきたわけ。 俺はミヤギに向かって、高らかに宣言した。 「俺は、この三十万円で、何かを変えてみせる」 「はあ」とミヤギは興味なさそうに言った。 「たった三十万円だろうと、これは俺の命だ。 三百万や三億より価値のある三十万にしてやる」俺としては、かなり格好良いことを言ったつもりだったね。 でもミヤギはしらけっぱなしだった。 「皆、同じことを言うんですよ」 「どういうことだ?」と俺は聞いた。 「死を前にした人は、皆、極端なことを言うようになるんです。 ……でもですよ、クスノキさん。よーく考えてください」 ミヤギは感情のない目で俺を見すえて言った。 「三十年で何一つ成し遂げられないような人が、たった三か月で何を変えられるっていうんですか?」 「……やってみなきゃわかんないさ」と俺は言い返したが、実際、彼女の言ってることは、どこまでも正しいんだよな。 俺はそこであることに気付いて、ミヤギに聞いた。 「なあ、あんた、もしかして、この先三十年かけて俺の人生に起こるはずだったこと、全部知ってんのか?」 「大体は知ってますよ。もう意味のないことですけどね」 「俺に取っちゃ相変わらず有意味だよ。教えてくれ」