コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
「なんか、まるで別の人みたいですね」 正直言って嬉しかったな。俺、悪くないじゃん! 待ち合わせまで暇だったから、俺はミヤギに頼んで、幼馴染と会ったときの予行演習をすることにした。 昨日友人と会った時のレストランに入り、訓練を始める。 正面に座ったミヤギに向かって俺は微笑み、「どうだミヤギ、感じ良く見えるか?」と聞く。 周りから見れば、壁に向かって微笑みかける変人だ。 ミヤギはサンドイッチをもそもそ食べながら答える。 「んー、ちょっと笑顔がこわばってますね。 普段笑わないから、表情筋が弱ってるんですよ」 「そうか。なら、夜までに鍛え上げてみせるさ」 俺は何度も笑ったり真顔になったりを繰り返す。 「……あなた、なんていうか、おもしろいですね」 「ああ。魅力的だろ? 惚れないように気をつけろよ?」 「気を付けます。しかし、浮き沈みの激しい人ですね」 実際、かなり浮かれてたんだよ、その時は。 電話してから幼馴染に会うまで大体八時間くらい間があったんけど、俺には二十七時間くらいに感じられたね。 五秒に一回くらい腕時計を見てた気がする。 ぎりぎりまで俺は、ミヤギで訓練してた。 どうすりゃ相手に良い印象を与えられるか、カフェのすみで、二人で試行錯誤してたな。 ――そうして、ついに待ち合わせの時間が来た。 待ち合わせ場所にやってきてくれた幼馴染を見て、俺はその外見や口調の変化にとまどいつつも、笑い方や仕草が変わっていないのに気づいて、それだけで、本当に電話してよかったと思った。 「ひさしぶり」と彼女は言った。 「元気にしてた?」 「元気にしてたよ、そっちは?」と俺は答えたが、余命三か月の俺が元気だって言うのも笑えるよな。