コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
店を出ると、俺は駅前の橋に向かった。 そしてそこで、幼馴染に渡すはずだった三十万円の入った封筒を胸から取り出し、道行く人に、一枚ずつ配って歩いた。 「やめましょうよ、こんなこと」とミヤギが言う。 「別に人に迷惑はかけてないだろ」と俺は返す。 どいつもこいつも、渡されたのが金だと分かると、薄っぺらい礼を言うか、怪訝そうな顔をした。 断る奴もたくさんいたし、もっとよこせと言う奴もいた。 三十万はあっという間になくなった。 俺は勢い余って、財布の金にまで手を出した。 きっと俺は、誰かに構って欲しかったんだろうな。 「何かあったんですか?」とか聞いて欲しかったんだろう。 三十三万円配り終えると、俺は道の真ん中で立ち尽くした。 道行く人が不快そうに俺のことを眺めていた。 タクシー代も残っていなかったので、俺は建物の陰になっているベンチで寝た。 真上に傾いた街灯があって、しょっちゅう点滅していた。 ミヤギも正面のベンチで寝るようだった。 女の子にひどいことさせんてなあ。 「先に帰っていいんだぞ?」 俺がミヤギにそう言うと、彼女は首をふった。 「そしたらあなた、自殺とかしそうですから」 眠りにつくまで、俺は真上に広がる星空を眺めていた。 最近、夜空を見る機会が増えた。 七月の月は、綺麗だ。 俺が見逃していただけで、五月も六月もそうだったのかもしれない。 俺はいつものように、眠りにつく前の習慣を始めた。 頭の中に、いちばんいい景色を思い浮かべる。 俺が本来住みたかった世界について、一から考える。五歳くらいから、ずっとやってる習慣だった。 ひょっとしたら、この少女的な習慣が原因で、俺はこの世界に馴染めなくなったのかもな。