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□メッセージ
「ああ。一万円を三十枚、三十人に一枚ずつ。 本当は人にあげるつもりだったが、考えが変わった」 すると男はタガが外れたように笑い出したんだ。 それから、俺にこんな質問をしてきたんだよ。 「なあ、お前――まさか、本当に自分の寿命が三十万だって言われて信じちゃったのか?」 「どういうことだ?」と俺は男に聞いた。 「どういうも何も、言葉そのままの意味だ。 本当に自分の寿命、三十万だと思ったのか?」 「そりゃ……最初は、安すぎると思ったが」 男は床を叩いて笑う。 俺は不愉快になってきた。 「そうかそうか。俺からはちょっと何も言えないが、まあ、今度あの子に会ったら、直接聞いてみな。 『俺の寿命、本当に三十万だったのか?』ってな」 次の朝、アパートにやってきたミヤギに、俺は男に言われた通りのことを訊ねてみた。 「もちろんですよ」と彼女は答えた。 「残念ですが、あなたの価値、そんなものなんですよ」 「ふうん」と俺が小馬鹿にしたような態度で言うと、ミヤギは俺が何かに気付いていることを察したらしく 「代理の人に、何か言われたんですか?」と俺に聞いた。 「俺はただ、もう一回確認してみろって言われただけさ」 「……そんなこと言っても、三十万は三十万ですよ」 あくまでしらを切り通すつもりらしいんだな。 「最初は、あんたがネコババしてると思ったんだ」ミヤギは、ちょっとだけ目を見開いてこちらを見た。 「俺の本来の値段は三千万とか三億なのに、あんたがこっそり横領したんだと思ってた。 ……でも、どうしても信じられなかったんだよな。 何か俺は根本的な勘違いをしてるんじゃないか、と思った。 それで一晩考え続けて、ふと気づいたんだ。