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――そもそも俺は、前提から間違ってたんだな。 どうして寿命一年につき一万円という値段が、最低買取価格だなんて信じてたんだろう? どうして人の一生が本来数千万や数億で売れて当たり前だなんて信じてたんだろう? 多分よけいな前知識がありすぎたんだな。 自分の勝手な常識に物事を当てはめ過ぎた。 俺はもっと、柔軟に考えるべきだったんだ」 俺は一呼吸おいて、それから言った。 「なあ、どうして見ず知らずの俺に、 あんたが三十万も出す気になったんだ?」 ミヤギは俺の言葉の意味を分かっているみたいだったが 「何を言ってるのかさっぱりわかりませんね」と言って、 いつものように部屋のすみに腰を下ろした。 俺はミヤギが座っている位置の対角線上にある部屋のすみに移動して、彼女と同じように三角座りをした。 ミヤギはそれを見て、ちょっとだけ微笑んだ。 「あんたがしらんぷりするなら、それでもいい。 でも一応言わせてもらうよ。ありがとう」 俺がそう言うと、ミヤギは首をふった。 「いいんですよ。こんな仕事ずっと続けてたら、どうせ借金を返し終わる前に死んじゃうんです。仮に払い終えて自由の身になったとしても、楽しい人生が約束されてるわけでもないし。 だったらまだ、そういうことに使った方がいいんです」 「実際のとこ、俺の価値っていくらだったんだ?」 ミヤギは「……三十円です」と小声で言った。 「電話三分程度の価値か」と俺は笑った。 「悪かったな、あんたの三十万、あんな形で使っちまって」 「そうですよ。もっと自分のために使って欲しかったです」 怒ったような言い方をしつつも、ミヤギの声は優しげだった。