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視野はどんどん狭まって、思考も偏っていって、とてもアイディアなんか思いつく状態じゃなかったな。 気が付くと、以前よく訪れていた古書店の前にいた。 俺は店長の爺さんの顔が恋しくなって、中に入った。 爺さんはいつも通り、野球中継を聞きながら本を読んでいた。 俺はこの数十日で起きた一連の出来事を彼に話したかったが、そんなことしたら爺さんが罪悪感を覚えるかもしれないから、結局あの店には行かなかったふりをすることにした。 何気ない会話を、二十分くらい交わした。 会話は全然噛み合ってなかったんだが、それでも俺は独特の安らぎを覚えたな。 去り際、俺はさりげなく爺さんに訊ねた。 「自分の価値を高めるには、どうすればいいと思います?」 爺さんはラジオのボリュームを落とした。 「そうさな。堅実にやる、しかねえんじゃないか。 それは俺には出来なかったことなんだけどな。 なんつうかな、結局、目の前にある 『やれること』を 一つ一つ堅実にこなしていく こと以上にうまいやり方はねえんだ。 ――だが、それよりももっと大切なことがある。 それは『俺みたいな人間のアドバイスを信用しない』ってことだ。 成功したことがないくせに成功について語っちまうようなやつは、自分の負けを認めたがらないクズばっかりだからな」 古書店を出た俺は、その流れで、いつも通っていたCDショップに足を運んだ。 店員の兄ちゃんには、爺さんについたのと同じ嘘をついた。 しばらく最近聴いたCDの話をした後、俺はこう聞いた。 「限られた期間で何かを成し遂げるには、どうすればいいんでしょうね?」 「人を頼るしか、ないんじゃないっすかね」と彼は言った。