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「笑えねえよ」と彼は不快そうな顔をして言った。 「あのな、クスノキ。前から思ってたが、お前病んでるんだよ。 人と会わないで自分の殻にこもってるから、そういうことになるんだ」 「あんたがそう思うのも、無理はないよな。俺があんたの立場だったら同じ反応を示したと思う。 でも、確かにミヤギはここにいるんだよ。その上、かわいいんだ」 俺はそう言って一人で大笑いした。 彼はあきれた顔をして去っていったな。 通り雨だったらしく、雨はすぐにやみ始めた。 空には、うすぼんやりと虹が浮かんでいたな。 「あの、さっきの……ありがとうございます」 ミヤギはそう言って俺に肩を寄せた。 ”堅実に”、か。 俺は古書店の爺さんのアドバイスを思い出していた。 考えてみれば、俺にはできる事があるんだよな。 『借金を返す』って考えに縛られてたけどさ、こうやって俺が周りに不審者扱いされることだけでも、彼女はずいぶん救われるらしいじゃないか。 そうなんだよ。俺は彼女に、確実な幸せを与えられるんだ。 目の前にやれることがあるのに、どうしてそれをやらない? バスに乗って、俺たちは湖に向かった。 そこで俺がやらかしたことを聞いたら、大半の人間は眉をひそめるだろうな。 周りには一人客に見えているのを承知で、俺は「あひるボート」に乗ってやったんだ。 係員の男が「一人で?」という顔をしたので、俺は彼には見えていないミヤギに向かって、「さあ、行こうぜ」とか声をかけてやった。 係員、半分怯えたような目をしてたな。 ミヤギはおかしくてしかたがないらしく、ボートに乗っている間もずっと笑っていた。 「だって、成人男性一人であひるボートですよ?」