コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
「なんか、一つの壁を越えた気がするね」と俺は言った。 一人あひるボートの後も俺は、一人観覧車、一人メリーゴーランド、一人水族館、一人シーソー、一人プール、一人居酒屋… とにかく一人でやるのが恥ずかしいことは大体やったな。 どれをやるにしても、俺は積極的にミヤギに話しかけた。 頻繁に彼女の名前を呼び、手をつないで歩いた。 段々と、俺は不名誉な感じの有名人になっていった。 俺の顔見るだけで指差して笑う人も、かなりいたな。 ただ、幸運なことに、俺はいつでも幸せそうな顔をしてたから、俺を見て逆に楽しい気分になる人もそこそこいたらしいんだ。 そして、俺の行為をパフォーマンスだと思い込む人も増え始めたんだな。 俺のこと、腕の立つパントマイマーだと褒めちぎるやつもいた。 逆に、「ミヤギさんは元気?」とかたずねてくる人も現れ始めてさ。 そう、徐々にだが、ミヤギの存在は受け入れられ始めたんだよ。 もちろん皆、透明人間の存在を本気で信じたわけじゃなくて、なんつーか、俺のたわごとを、共通の“お約束”として扱い、俺に話を合わせてくれるようになった、って感じ。 俺は「可哀想で面白い人」扱いを受けるようになったんだ。 この夏、俺はこの街で、一番のピエロだったんじゃねーかな。 良くも、悪くも。