コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
そうそう、居酒屋で一人乾杯をしてたとき、俺は隣の席の男に声を掛けられたんだ。 「あのときの人ですよね?」とか言われた。 こっちは向こうに見覚えがなかったんだが、そのいかにも音大生って感じの男は、どうやら、あの日俺が一万円を配ったうちの一人らしかった。 「最近、あなたの噂をよく聞きますよ。 まるで隣に恋人がいるかのようにふるまう、一人で幸せそうにしている男の人の噂」 「そんなやつがいるんですねえ」と俺は言い、「聞いたことある?」とミヤギにふった。 ミヤギは「知りませんねー」と言って笑った。 男はそんな俺の様子を見て、苦笑いする。 「……あの、僕には何となく分かるんですよ。 あなたの一連の行動には、深いわけがあるんでしょう? よかったら、僕に話してくれませんか?」 そんな風に聞いてくれた人は初めてだったな。 俺は彼の手を取って、深く礼を言った。 それから話したんだよ、今までのこと。貧乏だったこと。寿命を売ったこと。監視員のこと。 親のこと。友人のこと。タイムカプセルのこと。 未来のこと。幼馴染のこと。自販機のこと。 そして、ミヤギのこと。 話の途中、俺はつい口を滑らせて、こんなことを言った。 「本人に直接言ったことはないんですけどね、俺、ミヤギのこと、自分でもどうしたらいいのか分からないくらい、深く愛してるんですよ」 隣にいた本人は酒をこぼしそうになってたな。 だってその通り、俺が直接ミヤギに対して「愛してる」なんて言ったことは一度もなかったから。 ミヤギの反応が面白くて、俺は笑い転げたな。