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やはり、私もあなたと同じように、決意しました。 どうにかして兄に恩返ししてやろう、ってね。 でも、それには時間が足りなかったんです。 兄は消えました。私は何もできないままでした」 そこまで言うと、おっさんはグラスの残りを飲み干した。 「もし私が、当時の自分に何かアドバイスをするとしたら。 私は ”限界まで耳を澄ませ” と言うと思います。 そう、限界まで耳を澄ますんですよ。 限界までね。 ――そして、あなたはまだ間に合うところにいるんです。 ぎりぎりですけど、まだきっと間に合うはずなんです」 おっさんがいなくなった後も、俺はその言葉について考えた。 「限界まで耳を澄ます」。そりゃ、一体どういうことだろう? 本当にただ耳を澄ませってことなんだろうか? あるいは、深い意味のある有名な格言なんだろうか? それとも、特に意味はなく、口から出任せに言ったんだろうか? アパートに着くと、俺はミヤギと一緒にベッドに潜った。 「あの男の人、いい人でしたね」と言って、ミヤギは眠った。 すうすう寝息を立てて、子供みたいに安らかな顔で。 それは何回見ても、慣れないし、飽きないんだ。 俺はミヤギを起こさないようにベッドから降り、台所でコップ三杯の水を飲んだ後、部屋のすみに落ちていたスケッチブックを手に取り、ミヤギが起きていないのを確認すると、そっと開いた。 スケッチブックの中には、色んなものが描かれてたな。 俺の部屋にある電話や壊れたテレビや酒瓶、レストランやカフェや駅やスーパーの風景、あひるボートや遊園地や噴水や観覧車、カブ、ポカリスエットの空き缶、スヌーピー。 で、俺の寝顔。