コピーフォーム
□ハンドル
□メッセージ
俺はスケッチブックを一枚めくり、仕返しにミヤギの寝顔を描きはじめた。 しょっちゅうミヤギが絵を描くのを横で見ているうちに、絵の描き方ってのが大体わかるようになってたんだな。 俺の頭からはすっかり色んなものが削ぎ落とされてたから、「上手く描こう」とか「あの画家のアプローチを真似よう」とか、そういうよけいなことは一切考えずに絵に集中できた。 完成した絵を見て、俺は満足感を覚えると同時に、ほんのちょっぴりだけ、違和感を覚えた。 その違和感を見逃すのは、簡単だった。 ちょっと他のことに考えを移せば、すぐにでも消えてしまうような、小さな違和感だった。 でも、俺の頭の中にはあの言葉があったんだ。 『限界まで、耳を澄ますんですよ』。 俺は集中力を全開にした。 全神経を研ぎ澄まして、違和感の正体を探った。 そしてふと、理解したんだ。 次の瞬間には、俺は何かに憑りつかれたかのように、一心不乱にスケッチブックの上で鉛筆を動かしていた。 それは一晩中続いた。 俺はミヤギを連れて花火を見に行った。 近所の小学校の校庭が会場の花火大会で、それなりに手の込んだ打ち上げ花火が見れた。 屋台もたくさん出ていて、思ったより本格的だったな。 俺がミヤギと手を繋いで歩いているのを見ると、すれちがう子供たちが「クスノキさんだー」と楽しそうに笑った。 変人ってのは子供に人気があるんだよ。 お好み焼きの屋台の列に並んでいると、俺のことを噂で聞いたことがあるらしい高校生くらいの男たちが近づいてきて、「恋人さん、素敵っすね」とからかうように言った。 「いいだろ? 渡さないぞ」と言って俺はミヤギの肩を抱いた。