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なんか嬉しかったな。たとえ信じてないにせよ、「ミヤギがそこにいる」っていう俺のたわごとを、皆、楽しんでくれてるみたいだった。 会場からの帰り道も、俺たちはずっと手を繋いでた。 それが最後の日になると知っているのは、俺だけだった。 日曜になった。 ミヤギは二週に一度の休日だった。 「よう、ひさしぶり」と代理の監視員が言った。 本来なら、余命はあと三十三日だった。 明日になれば、ミヤギはまた俺のところにきてくれるはずだった。 だが俺は、再び、例のビルへ向かったんだ。。 そう、俺がミヤギと初めて顔を合わせた場所だ。 そこで俺は、残りの三十日分の寿命を売り払ったんだ。 査定結果をみて、監視員の男は驚いてたな。 「あんた、これが分かってて、ここに来たのか?」 「そうだよ」と俺は言った。 「すげえだろ?」 査定を担当した三十台の女は、困惑した様子で俺に言った。 「……正直、おすすめしないわ。あなた、残りの三十三日間、きちんとした画材やら何やらを用意して描き続けるだけで、将来、美術の教科書にちらっと載ることになるのよ?」 『世界一通俗的な絵』。 俺の絵は、後にそう呼ばれ、一大議論を巻き起こしながらも、最終的には絶大な評価を得ることになるはずだったらしい。 もっとも、三十日を売り払った今、それも夢の話だ。 俺が描いたのは、五歳頃からずっと続けていたあの習慣、寝る前にいつも頭に浮かべていた景色たちだった。 自分でも知らないうちに、俺はずっと積み重ねてきてたんだよ。 それを表現する方法を教えてくれたのは、他でもないミヤギだった。 女によると、俺が失われた三十日で描くはずだった絵は、『デ・キリコを極限まで甘ったるくしたような絵』だったらしい。