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□ハンドル
□メッセージ
美術的史なことにはほとんど興味がなかったが、一か月分の寿命を売っただけで大金が入ったことは嬉しかったな。 ミヤギの借金を返しきるには至らなかったが、それでも、彼女はあと五年も働けば、晴れて自由の身になるらしかった。 「三十年より価値のある三十日、か」と監視員の男が笑った。 でも、そういうもんだよな。 残り、三日。 最初の朝だった。 ここからは、監視員の目は一切ない。 純粋に俺だけの時間だ。 ミヤギは今頃、どっかの誰かを監視してるんだろうか。 そいつがヤケになってミヤギを襲ったりしないことを、俺は祈った。 ミヤギが順調に働き続け、借金を返し終わった後、俺のことを忘れちまうくらいに幸せな毎日を過ごせるよう、俺は祈った。 三日間を何に費やすかは、最初から決めていた。 俺はかつてミヤギと一緒にめぐった場所を、今度は一人でめぐった。 思いつきで、俺はミヤギがいるふりをしてみることにした。 手を差し出して、「ほら」と言って、空想上のミヤギと手をつないだ。 周りから見れば、いつも通りの光景だったろうな。 ああ、またクスノキの馬鹿が架空の恋人と歩いてるよ、みたいな。 でも、俺にとっては大違いだったんだ。 俺はそれを自分からやっておきながら、まともに立っていられないほどの悲しみに襲われた。 噴水の縁に座ってうなだれていると、中学生くらいの男女に声をかけられた。 男の方が俺に無邪気に話しかける。 「クスノキさん、今日はミヤギさん元気?」 「ミヤギはさ、もう、いないんだ」と俺は言う。 女の方が両手を口にあてて驚く。 「え、どうしたの? 喧嘩でもしたの?」 「そんな感じだな。お前たちは喧嘩するなよ」