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題名:☆慶チン⌒☆の部屋
- ☆慶チン☆
- 2013/04/17 01:13
まいどト樢Q
慶チンでふ(≧▽≦)ゞ
腕はありまてんが、オセロ好きでふヘ
仲良くしてくれてる方もまだそうでない方も遊びに来てコメしてに
よろちく〇〜
⇒書き込み
No.221
☆慶チン☆
2013/05/11 01:31
「だからこそ、三十万を無駄に使ってしまったこと、そして彼女を疑ってしまったことへの償いがしたいし、何より、彼女の借金を少しでも減らしてやりたいんです。
あの子には、こんな危ないことを続けさせたくないんですよ」
でも、俺が真面目になればなるほど、世界はしらけるんだ。
男はうさんくさそうな顔をしてたね。
俺の話なんて、ちっとも信じちゃいなかったんだ。
多分こいつは、話でも聞いてやれば、また俺が金をくれるとでも思ってたんだろうな。
男が去り、俺が帰り支度を始めると、今度は後ろに座っていたおっさんに声を掛けられた。
「すみません。盗み聞きする気はなかったんですけど、さっきの話、つい最後まで聞かせてもらっちゃいました」
安物のスーツを着たおっさんは、頭をかきながらそう言った。
「……で、率直に、どう思いました?」と俺は聞いた。
「その子、きっと、そこにいるんでしょう?」
おっさんはミヤギのいるあたりを見ながら言った。
「おお、よく分かりますね。そうなんですよ、かわいいんです」
俺はそう言ってミヤギの頭を撫でた。
ミヤギはくすぐったそうに目をつむっていた。
「やっぱりそうですよね。……あの、申しわけないんせんが、少々お二人の時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
”お二人”の箇所を強調して、おっさんは言った。
おっさんは言う。
「自分語りになってしまいそうですから手短に済ませますが、クスノキさん、私もあなたと似たような経験があります。
ちょうど私があなたくらいの歳だった頃、三歳上の兄が、まさにミヤギさんがあなたにそうしてくれたような方法で、どん底にいた私のことを救ってくれたんです。
No.222
☆慶チン☆
2013/05/11 01:40
やはり、私もあなたと同じように、決意しました。
どうにかして兄に恩返ししてやろう、ってね。
でも、それには時間が足りなかったんです。
兄は消えました。私は何もできないままでした」
そこまで言うと、おっさんはグラスの残りを飲み干した。
「もし私が、当時の自分に何かアドバイスをするとしたら。
私は
”限界まで耳を澄ませ”
と言うと思います。
そう、限界まで耳を澄ますんですよ。
限界までね。
――そして、あなたはまだ間に合うところにいるんです。
ぎりぎりですけど、まだきっと間に合うはずなんです」
おっさんがいなくなった後も、俺はその言葉について考えた。
「限界まで耳を澄ます」。そりゃ、一体どういうことだろう?
本当にただ耳を澄ませってことなんだろうか?
あるいは、深い意味のある有名な格言なんだろうか?
それとも、特に意味はなく、口から出任せに言ったんだろうか?
アパートに着くと、俺はミヤギと一緒にベッドに潜った。
「あの男の人、いい人でしたね」と言って、ミヤギは眠った。
すうすう寝息を立てて、子供みたいに安らかな顔で。
それは何回見ても、慣れないし、飽きないんだ。
俺はミヤギを起こさないようにベッドから降り、台所でコップ三杯の水を飲んだ後、部屋のすみに落ちていたスケッチブックを手に取り、ミヤギが起きていないのを確認すると、そっと開いた。
スケッチブックの中には、色んなものが描かれてたな。
俺の部屋にある電話や壊れたテレビや酒瓶、レストランやカフェや駅やスーパーの風景、あひるボートや遊園地や噴水や観覧車、カブ、ポカリスエットの空き缶、スヌーピー。
で、俺の寝顔。
No.223
☆慶チン☆
2013/05/11 02:24
俺はスケッチブックを一枚めくり、仕返しにミヤギの寝顔を描きはじめた。
しょっちゅうミヤギが絵を描くのを横で見ているうちに、絵の描き方ってのが大体わかるようになってたんだな。
俺の頭からはすっかり色んなものが削ぎ落とされてたから、「上手く描こう」とか「あの画家のアプローチを真似よう」とか、そういうよけいなことは一切考えずに絵に集中できた。
完成した絵を見て、俺は満足感を覚えると同時に、ほんのちょっぴりだけ、違和感を覚えた。
その違和感を見逃すのは、簡単だった。
ちょっと他のことに考えを移せば、すぐにでも消えてしまうような、小さな違和感だった。
でも、俺の頭の中にはあの言葉があったんだ。
『限界まで、耳を澄ますんですよ』。
俺は集中力を全開にした。
全神経を研ぎ澄まして、違和感の正体を探った。
そしてふと、理解したんだ。
次の瞬間には、俺は何かに憑りつかれたかのように、一心不乱にスケッチブックの上で鉛筆を動かしていた。
それは一晩中続いた。
俺はミヤギを連れて花火を見に行った。
近所の小学校の校庭が会場の花火大会で、それなりに手の込んだ打ち上げ花火が見れた。
屋台もたくさん出ていて、思ったより本格的だったな。
俺がミヤギと手を繋いで歩いているのを見ると、すれちがう子供たちが「クスノキさんだー」と楽しそうに笑った。
変人ってのは子供に人気があるんだよ。
お好み焼きの屋台の列に並んでいると、俺のことを噂で聞いたことがあるらしい高校生くらいの男たちが近づいてきて、「恋人さん、素敵っすね」とからかうように言った。
「いいだろ? 渡さないぞ」と言って俺はミヤギの肩を抱いた。
No.224
☆慶チン☆
2013/05/11 02:49
なんか嬉しかったな。たとえ信じてないにせよ、「ミヤギがそこにいる」っていう俺のたわごとを、皆、楽しんでくれてるみたいだった。
会場からの帰り道も、俺たちはずっと手を繋いでた。
それが最後の日になると知っているのは、俺だけだった。
日曜になった。
ミヤギは二週に一度の休日だった。
「よう、ひさしぶり」と代理の監視員が言った。
本来なら、余命はあと三十三日だった。
明日になれば、ミヤギはまた俺のところにきてくれるはずだった。
だが俺は、再び、例のビルへ向かったんだ。。
そう、俺がミヤギと初めて顔を合わせた場所だ。
そこで俺は、残りの三十日分の寿命を売り払ったんだ。
査定結果をみて、監視員の男は驚いてたな。
「あんた、これが分かってて、ここに来たのか?」
「そうだよ」と俺は言った。
「すげえだろ?」
査定を担当した三十台の女は、困惑した様子で俺に言った。
「……正直、おすすめしないわ。あなた、残りの三十三日間、きちんとした画材やら何やらを用意して描き続けるだけで、将来、美術の教科書にちらっと載ることになるのよ?」
『世界一通俗的な絵』。
俺の絵は、後にそう呼ばれ、一大議論を巻き起こしながらも、最終的には絶大な評価を得ることになるはずだったらしい。
もっとも、三十日を売り払った今、それも夢の話だ。
俺が描いたのは、五歳頃からずっと続けていたあの習慣、寝る前にいつも頭に浮かべていた景色たちだった。
自分でも知らないうちに、俺はずっと積み重ねてきてたんだよ。
それを表現する方法を教えてくれたのは、他でもないミヤギだった。
女によると、俺が失われた三十日で描くはずだった絵は、『デ・キリコを極限まで甘ったるくしたような絵』だったらしい。
No.225
☆慶チン☆
2013/05/11 03:08
美術的史なことにはほとんど興味がなかったが、一か月分の寿命を売っただけで大金が入ったことは嬉しかったな。
ミヤギの借金を返しきるには至らなかったが、それでも、彼女はあと五年も働けば、晴れて自由の身になるらしかった。
「三十年より価値のある三十日、か」と監視員の男が笑った。
でも、そういうもんだよな。
残り、三日。
最初の朝だった。
ここからは、監視員の目は一切ない。
純粋に俺だけの時間だ。
ミヤギは今頃、どっかの誰かを監視してるんだろうか。
そいつがヤケになってミヤギを襲ったりしないことを、俺は祈った。
ミヤギが順調に働き続け、借金を返し終わった後、俺のことを忘れちまうくらいに幸せな毎日を過ごせるよう、俺は祈った。
三日間を何に費やすかは、最初から決めていた。
俺はかつてミヤギと一緒にめぐった場所を、今度は一人でめぐった。
思いつきで、俺はミヤギがいるふりをしてみることにした。
手を差し出して、「ほら」と言って、空想上のミヤギと手をつないだ。
周りから見れば、いつも通りの光景だったろうな。
ああ、またクスノキの馬鹿が架空の恋人と歩いてるよ、みたいな。
でも、俺にとっては大違いだったんだ。
俺はそれを自分からやっておきながら、まともに立っていられないほどの悲しみに襲われた。
噴水の縁に座ってうなだれていると、中学生くらいの男女に声をかけられた。
男の方が俺に無邪気に話しかける。
「クスノキさん、今日はミヤギさん元気?」
「ミヤギはさ、もう、いないんだ」と俺は言う。
女の方が両手を口にあてて驚く。
「え、どうしたの? 喧嘩でもしたの?」
「そんな感じだな。お前たちは喧嘩するなよ」
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