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題名:☆慶チン⌒☆の部屋
- ☆慶チン☆
- 2013/04/17 01:13
まいどト樢Q
慶チンでふ(≧▽≦)ゞ
腕はありまてんが、オセロ好きでふヘ
仲良くしてくれてる方もまだそうでない方も遊びに来てコメしてに
よろちく〇〜
⇒書き込み
No.201
☆慶チン☆
2013/05/10 20:20
「借金ですが、私の寿命を全部売って、ようやく返しきれるかどうかって額なんです。
あとちょっとで勝手に寿命を売られるところだったんですが、諦めかけた時、この監視員の仕事を紹介されたんですよ。
この仕事、大変ですが、稼ぎはすごくいいんです。
このまま続けていれば、私が五十歳になる頃には、全額返しきれてるんじゃないかと思います」
”五十歳になる頃には”、か。
これもまた、げんなりさせられる話だった。
彼女はまるでそれを救いのように話してたが、自分が何かしたわけでもないのに、あと数十年、俺みたいなやつの相手をし続けなきゃいけないわけだろ?
「そんな人生、全部売っちまえばいいじゃねえか。
五十まで生き残れる保証なんてないんだろ?」
俺がそう言うと、彼女は少し困ったような顔をした。
「たしかに、実際、監視員の仕事をしてる中で監視対象に殺されてる人も、たくさんいますね。
でも……ほら、簡単には割り切れませんよ。
いつかいいことあるかもしれないじゃないですか」
「そう言ってて、五十年間何一つ得られないまま死んでいった男のことを、俺は一人知ってるぜ」
「それ、私も知ってます」とミヤギはちょっとだけ微笑んだ。
なんだか嬉しかったな。俺の冗談で彼女が笑ってくれたことが。
始発電車に乗り、スーツや制服に囲まれた中、俺は周りの目も気にせずミヤギに話しかけた。
「タイムカプセルの中でさ、『一番のお友達』に俺を選んでくれてる人はいなかったけど、それでもやっぱり幼馴染のあの子だけは、俺の名前を手紙の中で出してくれてたんだよ」
もちろん、周りにはミヤギの姿が見えていないから、ひとりごとを言っているように見える。完全に不審者だ。
No.202
☆慶チン☆
2013/05/10 20:29
ミヤギは心配そうな顔で言う。
「あの、皆見てますよ。変な人だと思われてますよ」
「いいよ。思わせとけよ。実際、変な人なんだから。
……それでさ、あらためて駅で考えたんだけど、やっぱり俺にとっては、たとえどんなに変わり果てようと、幼馴染のあの子は、俺の人生そのものなんだよ」
「それで、どうしようっていうんですか?」
「最後に一度だけ、彼女に会って話がしたい。
そしてさ、俺に人生を与えてくれた恩返しに、俺の寿命を売って得た三十万を、彼女に渡したいんだ。
多分あんたは反対するだろうけど、別にいいだろ、俺の寿命を売って稼いだ俺の金なんだから」
「……そこまで言うなら、別に反対しませんよ。でも電車内で話すのは、もうやめましょう。
見てるこっちが恥ずかしいですよ」
とは言いつつも、ミヤギは妙に楽しそうだった。
家には帰らず、俺はそのまま街へ向かった。
トーストとゆで卵をコーヒーで胃に流し込むと、俺は深呼吸して、幼馴染に電話をかけた。
夜だったら会える、と幼馴染は言ってくれた。
好都合だった。こちらも色々と準備があるからな。
俺はミヤギの手を取って、ぶんぶん振りながら歩いた。
道行く人には一人でそうやってるように見えただろうけど、俺は気分がハイになってたから、どうでもよかった。
ミヤギは困ったような顔で俺に引っ張られるままにしてたな。
まず美容室へ向かい、二時間後に予約を入れた俺は、ショップに行って服と靴を買い、その場で着替えた。
新品の服を買うのなんて数年ぶりだった。
新しい服に着替えて髪を切った俺の姿は、なんだか俺じゃない誰かみたいだった。
ミヤギもまったく同じ感想をくれた。
No.203
☆慶チン☆
2013/05/10 20:39
「なんか、まるで別の人みたいですね」
正直言って嬉しかったな。俺、悪くないじゃん!
待ち合わせまで暇だったから、俺はミヤギに頼んで、幼馴染と会ったときの予行演習をすることにした。
昨日友人と会った時のレストランに入り、訓練を始める。
正面に座ったミヤギに向かって俺は微笑み、「どうだミヤギ、感じ良く見えるか?」と聞く。
周りから見れば、壁に向かって微笑みかける変人だ。
ミヤギはサンドイッチをもそもそ食べながら答える。
「んー、ちょっと笑顔がこわばってますね。
普段笑わないから、表情筋が弱ってるんですよ」
「そうか。なら、夜までに鍛え上げてみせるさ」
俺は何度も笑ったり真顔になったりを繰り返す。
「……あなた、なんていうか、おもしろいですね」
「ああ。魅力的だろ? 惚れないように気をつけろよ?」
「気を付けます。しかし、浮き沈みの激しい人ですね」
実際、かなり浮かれてたんだよ、その時は。
電話してから幼馴染に会うまで大体八時間くらい間があったんけど、俺には二十七時間くらいに感じられたね。
五秒に一回くらい腕時計を見てた気がする。
ぎりぎりまで俺は、ミヤギで訓練してた。
どうすりゃ相手に良い印象を与えられるか、カフェのすみで、二人で試行錯誤してたな。
――そうして、ついに待ち合わせの時間が来た。
待ち合わせ場所にやってきてくれた幼馴染を見て、俺はその外見や口調の変化にとまどいつつも、笑い方や仕草が変わっていないのに気づいて、それだけで、本当に電話してよかったと思った。
「ひさしぶり」と彼女は言った。
「元気にしてた?」
「元気にしてたよ、そっちは?」と俺は答えたが、余命三か月の俺が元気だって言うのも笑えるよな。
No.204
☆慶チン☆
2013/05/10 20:48
外見にそれなりに金をかけたおかげか、幼馴染は俺のことを気に入ってくれたみたいだった。
「ずいぶん変わったね」と言いながらべたべたしてくる。
なんていうかさ、いける感じの雰囲気だったんだよ。
訓練の成果と、未来を知ってるがゆえの余裕もあって、俺はかなりの好印象を幼馴染に与えることに成功してた。
しかし俺ってやつはさ、本当に物事を
台無しにしないと気が済まないらしいんだよな。
近況を語りたがる幼馴染の話をさえぎって、何と俺は、寿命を売った件について話し始めたんだよ。
「あのさ、俺、余命三か月しかないんだよ」って同情を引くような調子で語りはじめたんだ。
心のどこかで俺は、この幼馴染なら、俺の話を真面目に聞いてくれる、俺に深く同情し、慰めてくれるって信じてたんだろうな。
でも話が始まって五分とたたずに、幼馴染は退屈そうな反応を示し出した。
馬鹿にしたような顔で、「ふーん?」とか言うのな。
もちろん間違ってるのは俺で、悪いのは俺なんだ。
俺だって突然、寿命を買い取る店がどうだの監視員がこうだの言われても、信じないだろう。
大笑いされなかっただけマシだと思う。
幼馴染は「ちょっと失礼」と言って立ち上がった。
トイレにでも行くんだろう、と俺は思ってた。
その直後に、注文した料理が二人分届いた。
俺は早く続きを話したくて仕方なかったな。
でも幼馴染は戻ってこなかった。
料理が冷めるまで待ったけど、戻ってこなかった。
また俺は”やっちまった”わけだ。
俺は冷めたパスタをゆっくり食べた。
しばらくすると、ミヤギが正面に座って、幼馴染の分のパスタをぱくぱく食べ始めた。
「冷めてもおいしいですね」とミヤギは言った。
俺は何も言わなかった。
No.205
☆慶チン☆
2013/05/10 20:55
店を出ると、俺は駅前の橋に向かった。
そしてそこで、幼馴染に渡すはずだった三十万円の入った封筒を胸から取り出し、道行く人に、一枚ずつ配って歩いた。
「やめましょうよ、こんなこと」とミヤギが言う。
「別に人に迷惑はかけてないだろ」と俺は返す。
どいつもこいつも、渡されたのが金だと分かると、薄っぺらい礼を言うか、怪訝そうな顔をした。
断る奴もたくさんいたし、もっとよこせと言う奴もいた。
三十万はあっという間になくなった。
俺は勢い余って、財布の金にまで手を出した。
きっと俺は、誰かに構って欲しかったんだろうな。
「何かあったんですか?」とか聞いて欲しかったんだろう。
三十三万円配り終えると、俺は道の真ん中で立ち尽くした。
道行く人が不快そうに俺のことを眺めていた。
タクシー代も残っていなかったので、俺は建物の陰になっているベンチで寝た。
真上に傾いた街灯があって、しょっちゅう点滅していた。
ミヤギも正面のベンチで寝るようだった。
女の子にひどいことさせんてなあ。
「先に帰っていいんだぞ?」
俺がミヤギにそう言うと、彼女は首をふった。
「そしたらあなた、自殺とかしそうですから」
眠りにつくまで、俺は真上に広がる星空を眺めていた。
最近、夜空を見る機会が増えた。
七月の月は、綺麗だ。
俺が見逃していただけで、五月も六月もそうだったのかもしれない。
俺はいつものように、眠りにつく前の習慣を始めた。
頭の中に、いちばんいい景色を思い浮かべる。
俺が本来住みたかった世界について、一から考える。五歳くらいから、ずっとやってる習慣だった。
ひょっとしたら、この少女的な習慣が原因で、俺はこの世界に馴染めなくなったのかもな。
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