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題名:☆慶チン⌒☆の部屋
- ☆慶チン☆
- 2013/04/17 01:13
まいどト樢Q
慶チンでふ(≧▽≦)ゞ
腕はありまてんが、オセロ好きでふヘ
仲良くしてくれてる方もまだそうでない方も遊びに来てコメしてに
よろちく〇〜
⇒書き込み
No.191
☆慶チン☆
2013/05/10 16:41
同世代の女の子に見られてるのを意識しだすと、行動のひとつひとつがおかしくなるんだよ。
「自然体っぽい格好よさ」を出そうとしちまうんだな。
気付くと髪を触ってるんだ。完全に自意識過剰だ。
こういうことたまに考えちゃうんだよなぁ
自分の生きている価値というかなんと言うかしばらくは、手元に残ってた本の中でも一番難解な
「フィネガンズ・ウェイク」を読んで格好つけてた。
当然、内容はさっぱり頭に入ってこなかった。
余命三ヶ月だってのに、何をやってるんだろな。
読書に飽きた俺は近所のスーパーに行って、グラス付きのウイスキーと氷を買った。
ミヤギも菓子パンやら何やらを買いこんでた。
それを見た俺は、なんか幸せな錯覚に陥ってさ。
実を言うと、俺には昔から憧れがあったんだよ。
同居してる子と部屋着のままスーパーに行って、食材とかお酒を買って帰ってくる、って行為に。
羨ましいなー、って思いながらいつも見てた。
だから、たとえ監視が目的だろうと、若い女の子と夜中のスーパーで買物するってのは楽しかったんだ。
むなしい幸せだろ?でも本当だから仕方ない。
家に帰って、ウイスキーをちびちび飲んでいるうちに、俺は久しぶりに良い気分になってきた。
こういうとき、アルコールってのは偉大だな。
部屋のすみでノートに何かを書いているミヤギに俺は近づき、「一緒に飲まない?」と誘ってみた。
「結構です。仕事中なので」ミヤギはノートから顔も上げずに断った。
No.192
☆慶チン☆
2013/05/10 16:54
「それ、何書いてんだ?」と俺は聞いた。
「行動観察記録です。あなたの」
「そうか。いま俺は、酔っ払ってるよ」
「そうでしょうね。そう見えます」
ミヤギはめんどくさそうにうなずいた。
実際めんくせーんだろうな、俺。
完全に酔いが回った俺は、なんだか自分が悲劇の主人公になったような気がしてきた。
で、落胆の反動っていうか、双極性っていうかさ。
急にポジティブになったんだよ。
得体のしれない活力が溢れてきたわけ。
俺はミヤギに向かって、高らかに宣言した。
「俺は、この三十万円で、何かを変えてみせる」
「はあ」とミヤギは興味なさそうに言った。
「たった三十万円だろうと、これは俺の命だ。
三百万や三億より価値のある三十万にしてやる」俺としては、かなり格好良いことを言ったつもりだったね。
でもミヤギはしらけっぱなしだった。
「皆、同じことを言うんですよ」
「どういうことだ?」と俺は聞いた。
「死を前にした人は、皆、極端なことを言うようになるんです。
……でもですよ、クスノキさん。よーく考えてください」
ミヤギは感情のない目で俺を見すえて言った。
「三十年で何一つ成し遂げられないような人が、たった三か月で何を変えられるっていうんですか?」
「……やってみなきゃわかんないさ」と俺は言い返したが、実際、彼女の言ってることは、どこまでも正しいんだよな。
俺はそこであることに気付いて、ミヤギに聞いた。
「なあ、あんた、もしかして、この先三十年かけて俺の人生に起こるはずだったこと、全部知ってんのか?」
「大体は知ってますよ。もう意味のないことですけどね」
「俺に取っちゃ相変わらず有意味だよ。教えてくれ」
No.193
☆慶チン☆
2013/05/10 17:10
「そうですねえ」とミヤギは足を崩しながら言う。
「まず一つ言えるのは、あなたが売った三十年の中で、あなたが誰かに好かれることはありません」
「それって悲しいことだよな」と俺は他人事のように言った。
「あなたは誰のことも好きになることができず、そんなあなたを周りの人間が好きになるはずもなく、相互作用でどんどんあなたと他人の距離は開いて、最終的に、あなたは世界に愛想を尽かされるんです」ミヤギはそこでちらっと俺の目を見た。「『それでも、いつかいいことがあるかもしれない』。そんな言葉を胸にあなたは五十歳まで生き続けますが、結局、何一つ得られないまま、一人で死んでいきます。最後まで、『ここは俺の場所じゃない』って嘆きながら」
「それって悲しいことだよな」と俺は機械的に繰り返した。
でも内心、やっぱりしっかり傷ついていた。
ただ、かなり納得できる話でもあったな。
さらにミヤギが続けた話によれば、俺は四十歳でバイク事故を起こすらしい。
その事故で顔の半分を失い、歩けなくなるとか。かなり気のめいる話だったが、一方で、それを経験する前に死ねることを考えると、案外俺はラッキーなのかもしれないと思った。
そうなんだよな、半ば期待する余地があるから、五十年も無意味な人生を送ったりしちまうんだ。
完全に良いことが何もないって分かってれば、逆に何の未練もなく逝けるってもんだ。
No.194
☆慶チン☆
2013/05/10 17:22
俺は気を紛らそうとして、テレビをつけた。
番組ではスポーツ特集をやっているらしかった。
まずいと思ってチャンネルを変えようとした頃には、弟の顔と名前がしっかり画面上に出ていた。
俺は反射的にグラスを投げつけてたね。
テレビが倒れて床に落ち、グラスの破片が飛び散る。
俺はふっと我に返り、ミヤギの方を見る。
彼女は明らかに警戒した様子で俺のことを見ている。
「弟なんだよ」と俺は努めて明るく言ったんだが、それが逆に本格的にイカれてる人っぽくて笑えたな。
「……弟さんのこと、あんまり好きじゃないんですね?」
ミヤギは軽蔑するような調子で言った。
「あんまりね」と俺はうなずいた。
隣の部屋から壁を殴る音がした。
割れたグラスを片付けたりなんかしていると、俺の酔いはまずい感じに醒めてきた。
このまま完全にアルコールが抜ければ、最悪の精神状態になるのが目に見えてた。
だから俺はある人に電話をかけたんだ。
思うに、これもまた最悪の選択だったな。
俺ってやつは、自分で自分の人生を悪い方向に転がすことにかけては一流なんだ。
電話の相手は、高校の頃の一番の友人だった。
数か月間一度も連絡をとってなかったのに、「今から会えないか」なんて無茶なことを言う俺に、友人は「今からそっちにいくよ」と快く応じてくれた。
その時は、ちょっと救われた気でいたな。
まだ俺のことを気に掛けてくれている人がいるんだ、って思った。
この上なく情けない話なんだけどさ、友人と会うにあたって、俺にはちょっとした下心があった。
このミヤギって子、見てくれはそれなりなんだよ。
愛想はないけど、ふるまいがかわいいんだ。
その子が俺の後ろをずっとついてくるわけ。
No.195
☆慶チン☆
2013/05/10 17:33
そりゃ、それが監視員の仕事だからな。
でさ、スーパーを歩いてる最中、俺は思ったんだよ。
周りには、俺たち恋人同士に見えてるんじゃないか、って。
むしろそれ以外の何に見えるって言うんだろうな?
俺は、友人がそういった勘違いをしてくれることを期待してたんだ。
かわいい子を連れてることを自慢したかったのさ。
聞いてる方が恥ずかしくなるような動機だろ?
だが俺にとっては切実だったんだ。
レストランのテーブルにつくと、ミヤギは俺の隣に座った。
俺は満足して、早く友人が来ないかとうずうずしてたね。
時計を見る。ちょっと着くのが早すぎたらしい。
友人が来るまでコーヒーでも飲んで待つことにした。
ウェイトレスが来ると、俺は自分の注文を言った後、ミヤギに向かって、「あんたはいいのか?」と聞いた。
すると彼女は気まずそうな顔をした。
「……あの、最初に言いませんでしたっけ?」
「何を?」と俺は聞きかえした。
「私、あなた以外には見えてないんですよ。
声も聞こえてないし、触っても気付かないんです」
ミヤギはウェイトレスの脇腹を突っついた。たしかに、無反応だった。
俺は目線を上げてウェイトレスの顔を見た。
「うわあ……」って目で俺のことを見てたね。
これはやっちまったな、と思った。
しばらく恥ずかしさで顔が真っ赤だった。
こうなると、友人に女の子を自慢するというささやかな夢も叶わなくなったわけだ。
二重にも三重にも惨めだったな。
俺の場合、寿命や健康や時間なんかより、惨めさを売った方がよっぽど金になりそうだ。
もう帰っちまおうかとも思ったけど、そこにちょうど友人が現れちまったんだ。
俺たちは大袈裟に再会の喜びを分かち合った。
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