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題名:☆慶チン⌒☆の部屋
- ☆慶チン☆
- 2013/04/17 01:13
まいどト樢Q
慶チンでふ(≧▽≦)ゞ
腕はありまてんが、オセロ好きでふヘ
仲良くしてくれてる方もまだそうでない方も遊びに来てコメしてに
よろちく〇〜
⇒書き込み
No.196
☆慶チン☆
2013/05/10 17:49
高校時代、俺たちは不満の塊だった。
ことあるごとに二人でマクドナルドに居座って、何時間でも愚痴を言い合ったもんだった。
多分、当時の俺たちが本当に言いたかったのは、「幸せになりてえなあ」の一言だったんだろう。
でもそれを口にするのが怖くて、俺たちは、何時間も呪詛を吐いてうさ晴らししてたんだ。
しかし、久しぶりに顔を合わせた友人は、たしかに愚痴こそ言うものの、あの頃とは何かが根本的に変わってしまっていた。
なんていうか、それは現実的で妥当な愚痴なんだな。
あの頃の理不尽で非現実的で的外れな愚痴とは違う。
今の彼が口にするのは、バイト先の愚痴とか、彼女の愚痴とか、そういうのなんだ。
俺は耐えられなくなってきてさ。友人の話は露骨な自慢話になっていくし、隣ではミヤギがぼそぼそ俺に話しかけてくる。
俺は二人に同時に話しかけられるのが大嫌いで、そういうことをされると、頭が破裂しそうになるんだ。
で、あっさりと限界を迎えた。
まあ、ただでさえ余裕がなかったのもあったんだろうな。
気が付くと、俺はミヤギに「黙ってろ!」って怒鳴ってたんだ。
店内が静まり返ったな。
数秒後、一気に血の気が引いて行った。
友人に何か言われる前に、俺は金を置いて席を立った。
いよいよ精神異常者みたいになってきてたな。
こりゃ三十万しかもらえないわけだ。
俺は夜道を歩いて帰った。酔いはすっかり醒め、体調は悪いくせに、目は冴えまくっていた。
ちっとも眠れそうになくて、俺はテレビを見ようと思ったが、そういえば自分でグラスをぶつけて破壊したんだった。
幸い音だけは出るみたいだったから、俺はそれを巨大で不親切なラジオだと思うことにした。
缶ビールを開けて、プリッツをつまみに飲む。
No.197
☆慶チン☆
2013/05/10 19:26
ミヤギは俺の観察記録を書いているようだった。
俺のレストランでの愚行について書いてるんだろうな。
「なあ、さっきは怒鳴って悪かった」と俺は言った。
「確かに、あんたの言う通りだったんだ。
俺は適当な嘘でもついて、さっさと店を出るべきだった」
「そうですね」とミヤギはこっちを見ずに答えた。
「それを書き終えたら、一緒に飲まないか?」
「飲んで欲しいんですか?」と彼女は聞きかえしてきた。
「そりゃもうな。寂しいから」と正直に答えると、「悪いですけど、仕事中なんで無理です」と断られた。
じゃあ最初からそう言えよって話だよな。
夜が明けてきて、小鳥のさえずりが聞こえ始める。
ミヤギは一分寝て五分起きるみたいなサイクルで俺のことを監視しているようだった。
なんつうか、タフだよな。俺にはとてもできそうもない。
夕暮れになって、俺は目を覚ました。
にわかには信じられないかもしれないが、もともと俺はかなり真面目な性格なんだ。
十二時に寝て六時に起きるのが基本でさ。
夕焼けに照らされて目覚めるってのは、新鮮な感じだった。
部屋のすみを見ると、ミヤギは変わらずそこにいた。
いつの間にかシャワーを浴びたらしく、近くを通った時にせっけんの匂いがした。
同じ俺の部屋なのに、ミヤギのいる周辺だけはまったく異質の空間みたいな感じがしたな。
俺は例のリストを眺め、今日は遺書を書くことに決めた。
近所の商店で便箋を買ってくると、俺は万年筆を手に取った。
手紙なんて書くのは久しぶりだな、と思った。
最後にまともな手紙を書いたのはいつだろう?俺は記憶を探る。おそらくそれは、小六の夏。
あの夏、クラスの皆でタイムカプセルを埋めたんだ。
No.198
☆慶チン☆
2013/05/10 19:42
銀色の球形のカプセルに、当時の宝物ひとつと、未来の自分への手紙を入れたんだよな。
皆、一生懸命書いてたな。案外面白いんだよ、あれ。
二十歳になったらそれを掘り出そうって決めてたけど、今のところ、何の連絡もきていなかった。
俺だけに連絡がきてないってことも考えられるが、十中八九、係のやつが忘れちまったんだろう。
そこで俺は思ったんだよ。
どうせ誰も掘り出さないなら、
俺一人でタイムカプセルを掘り出してやろう、ってさ。
そういうノスタルジックでロマンチックで、甘い感傷に浸らせてくれるものを俺は求めていた。
夜中になると、俺は電車で小学校に向かった。
スコップを納屋から拝借してくると、俺は体育館の裏に行って、穴を掘りはじめた。
すぐに見つかるもんだと思ってたんだけど、案外埋めた場所って覚えてないもんでさ。
ミヤギは、穴を掘り続ける俺を、近くに座ってぼうっと眺めてた。
なんとも奇妙な光景だっただろうな。
結局タイムカプセルが見つかったのは、穴を掘りはじめてから三時間後くらいで、その頃にはスコップを握る両手はマメだらけ、身体は汗まみれ、靴は泥だらけだった。
街灯の下に行って、俺はタイムカプセルを開けた。
自分の手紙だけ取りだそうと思ってたんだが、ここまで苦労したんだし、いっそのこと、全部に目を通しちまおうって俺は考えた。
顔も覚えてないようなクラスメイトの手紙を開く。
その瞬間まで俺は完全に忘れてたんだが、手紙には、最後に、こういう欄があったんだよ。「一番のお友達は誰ですか」っていう欄がさ。
これまでの流れからいって予想はつくけど、そこに俺の名前を書いてる奴は一人もいなかった。
No.199
☆慶チン☆
2013/05/10 20:00
なるほどね、と俺は妙に納得してしまった。
一番輝いて見えた小学時代さえ、この有様だ。
ただ、ひとつだけ救いはあった。
例の幼馴染だけどさ、あの子だけは、「一番のお友達」にこそ指名しなかったけど、手紙の文中で俺の名前を出してくれてたんだ。
いや、これを救いと捉えるのも相当むなしい話だが。
自分の手紙と幼馴染の手紙だけ抜きとると、俺はタイムカプセルを元あった場所に埋め直した。
去り際、ミヤギがタイムカプセルを埋めた場所の上に立って、地面を足でとんとんと均していたことを覚えてる。
終電は数時間前に駅を通過していた。
俺は駅の硬い椅子に寝そべって始発を待った。
異様に明るいし虫も多くて、寝るには最悪の環境だったな。
一方、ミヤギは全然平気そうでさ。
スケッチブックを取りだして、構内の様子を描いていた。
仕事の一環かな、と考えながら俺は眠りについた。
始発の数時間前に目を覚ました俺は、外に出て自販機でアイスコーヒーを買った。
変な場所で寝たせいで、体中があちこち痛んだ。
まだ辺りは薄暗かった。
構内に戻ると、ミヤギが伸びをしていた。
なんか、人間らしい一面をようやく見た気がしたな。
ああ、この子も伸びとかするんだ、って感心した。
感心ついでに、俺の中に、妙な感情が芽生えた。
余命三ヶ月っていう状況のせいかもしれない。
たび重なる失望のせいかもしれないし、連続した緊張、疲労や痛みのせいかもしれない。
起きたばかりで寝ぼけてたのかもしれないし、単にミヤギという子が好みだったからかもしれない。
まあ何でもいい。とにかくその時、不意に俺は、ミヤギに「酷いこと」をしてやりたくなったんだ。
自暴自棄の手本って感じだよな。どうしようもない。
No.200
☆慶チン☆
2013/05/10 20:10
ミヤギに詰め寄って、俺は聞いた。
「なあ監視員さん」
「なんでしょうか」とミヤギは顔をあげた。
「たとえば今ここで、俺があんたに乱暴なんかしたら、本部とやらが俺を殺すまで、どれくらいかかる?」
彼女は特に驚かなかった。さめた目で俺を見て、「一時間もかからないでしょうね」とだけ答えた。
「じゃあ、数十分は自由にできるってわけか?」そう俺が聞くと、彼女は俺から目を逸らして、「誰もそんなこと言ってませんよ」と言った。
しばらく沈黙が続いた。
不思議なことに、ミヤギは逃げ出そうとはしなかった。
ただじーっと、自分を膝を見つめてた。
「……危険な仕事なんだな」
そう言って、俺はミヤギの二つ隣に座った。
彼女は俺から目を逸らしたまま、「ご理解いただけたようで何よりです」と言った。
俺の神経の昂りはすっかり収まっていた。
ミヤギの諦めきったような目を見ていたら、こっちまで悲しくなってきたんだよ。
「俺みたいなやつ、少なくないんだろう?
死を前にして頭をおかしくしちまって、監視員に怒りの矛先を向けるようなやつ」
ミヤギは首をゆっくり振った。
「あなたは、どちらかと言えば楽なケースですよ。
もっと極端な行動に出る人、たくさんいましたから」
「……何で、そんな危ない仕事を、あんたみたいな若い子がやってるんだ?」
俺がそう聞くと、ミヤギはぽつぽつと話し始めた。
話によると、彼女には借金があるらしかった。
原因は彼女の母親にあるのだという。
なんでも、たいした人生でもないくせに、借金までして寿命を買いあさったらしい。
それなのに病気であっさり死んでしまって、そのツケをこの子が払うことになったんだとか。
清々しいくらい胸糞悪い話だったな。
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